書評:『我らに光を –さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦–』

編集部の活動/読み物
  1. ホーム
  2. 編集部の活動
  3. 書評:『我らに光を –さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦–』

評者:私道かぴ

我らに光を –さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦–

さいたま市にある「彩の国さいたま芸術劇場」に、故・蜷川幸雄氏の発案で2006年に創設された劇団がある。高齢者の劇団員だけで構成された「さいたまゴールド・シアター」である。劇場専属の高齢者劇団としては日本初となったこの団体は、2021年、コロナ禍の影響や劇団員の高齢化により惜しまれつつも最終公演を迎えた。劇団の取り組みを知る上で見逃せないのが、この一冊だ。本著は劇団の成り立ちや、蜷川氏を始めとした演出家のインタビューや寄稿、そして全劇団員のインタビューで構成されている。各章とも興味深いのだが、私が最も感銘を受けたのは「劇団員のインタビュー」の部分だった。

少し補足しておくと、さいたまゴールド・シアターは公募で選ばれた人たちから成る劇団だ。元々演劇を嗜んでおられた方はもちろん、中には「高齢者」と言われる歳になるまで演劇など全く縁がなかった、という方も一定数おられる。劇団員の演劇経験の差は一目瞭然だが、それぞれが歩んできた半世紀以上の人生には無数の経験が詰まっている。

結成当初は50代から80代までの年代で構成されていた劇団員は、戦時中から戦後、バブル時代などを経験してきた歴史の生き証人でもある。子育てや介護、自身の病気、孫の誕生など人生における個人的な出来事も経験している。では、一体なぜこのような時代を果敢に生きて来た人々が、このプロジェクトに応募したのか、という意気込みが語られているのが、このインタビューなのだ。

年齢を重ねてから、演劇という分野に足を踏み入れるなんて、さぞかし自分に自信がある人で、好奇心旺盛な人で‥‥というイメージを持ちそうになる。しかし、読み進めていくと決してそういった人たちばかりではない。介護や子育てからやっと手が離れて、この先の人生を自分の手に取り戻そうと藁にも縋る思いで応募した人、演劇に対する興味は全くなかったけれど「自分は絶対にこれに応募しなければいけない」という大きな勘が働いて、と話す人など様々だ。そんな一人ひとりが集まって一つの作品をつくるというのだから、現場は予想外の出来事や苦労の連続だったことだろう。

しかし、バラバラの個性が集まった中でも、不思議と似たような言葉が語られている。それはこんな一言だ。

「うまくいかないことも含めて楽しい」。

台詞を覚えられない。うまく立ち回れない、身体が言うことをきかないなど、若い頃とは違った苦労が出てくる高齢劇団員。しかし、そんな不自由さをどこか楽しんでいるような姿勢に、読者はいつの間にか勇気をもらっている。できないことを前にして、自分はどのように立ち回っていけるのか。そんな言葉を読むうちに、ふと彼らにとっての「演劇」のようなものが、自分の人生にもあるのではないかと思う。いち劇団の物語だと思っていたら、いつの間にか自分の人生を振り返る機会を与えてくれる。そんな不思議な一冊だ。


私道かぴ / Kapi Shido
作家・演出家
人々の生きづらさに焦点を当てた会話劇を得意とする。安住の地では、作家・岡本昌也との共同脚本・演出も行っている。2020年は無言劇『であったこと』、映像劇『筆談喫茶』など、新しい会話劇の形を模索する作品を発表。APAF2020 Young Farmers Camp 修了。身体をテーマにした戯曲『丁寧なくらし』が第20回AAF戯曲賞最終候補に選出された。